・神奈川県 M.A 様 ご依頼品
・カツミ 1/80 Scale (HO) ブラスキット(修理品)
国産の機関車の中では重量級のD形蒸気機関車。D52は1943年の第二次大戦中に設計された車輛で、D51の改良型とされながらも戦時中の物資不足の余波をもろにうけてしまい、銅材に代わり木材が各所に使われた上に工場ごとに本省の承認無しに設計変更がされてしまった為、車輛ごとに仕様や品質にばらつきが生じてしまいました。後年ではその事情によるちぐはぐさがD52の魅力として再評価され、現在もコアなファンに愛されています。特性上蒸気機関車の中でも短命に終わってしまったのですが、2016年に神奈川県の山北公園にて静態保存されていた車輛が動態化に成功し、現在も話題を集めている車輛でもあります。
車輛そのものにも多くの歴史がつまっているD52ですが、本作例のモデルはまた別の歴史を刻んだ車輛でもあります。
今回の車輛は、お客様が一度製作されたキットを基に製作しています。数十年前にお客様自身が購入し、当時手探りで組み上げた車輛なのです! 現代のように工具やマテリアルが充実していない時代に、工夫を凝らして形にした車輛は何物にも代え難い格別な車輛に仕上がりました。・・・しかし数十年の年月を重ねるに連れて、部品は外れてしまい色は剥がれ落ちてしまい、走行もままならなくなってしまいました。(画像2枚目にお預かりした状態を掲載しております。)
「本来の綺麗な姿を取り戻してほしい」というのが、お客様からのご要望でした。お預かりして、まずは欠損している部品の割り出し及び調達から始まります。コンプレッサーや給水温め器等のおおかたの欠損部品は安達製作所製のパーツでまかなうことが出来、あるべき姿を取り戻して行くのですが、中にはどうしても調達が叶わない部品もあります。例えば正面のデフ板などは比較的メジャーな車輛のものならば現在も供給されているのですが、D52のような車輛では部品が見つからず、デッキの角度や形状の特徴から他の車輛から流用も叶いません。そうなってしまうと、弊社で部品を新規に作り起こす外ありません。実車資料を頼りにプラや金属の素材を駆使して形状を出し、本体にぴたりとはまるように合わせて取付けられるように加工しました。
配管はお客様が製作された状況を可能な限り再現してあります。
塗装はほぼ黒ですが、車体には経年の痛みと製作当時試行錯誤された名残が残っており、そのまま塗装すると傷やヘコミがハッキリと浮き出てしまいます。パテを盛って表面を平滑に磨き上げ、塗装出来る面を作って行きました。
本製作の最大の難所は、走行出来る状態へ復元する事でした。モーターは磁力が飛んでいて満足に走る事が出来なかった為、代わりのモーターを搭載する事になりましたが、車体サイズや取付け座の成約から搭載出来るモーターが限られており、また当時と現在のモーターでは仕様が大きく変わっている為、その制約の中で合うモーターを探し出す事が最も大変でした。
そして蒸気機関車最大の見所であり最も精度の高い組立てを要求される、動輪回りの調整も同様に難しいポイントでした。年月が経過しているため同輪軸が緩んでいたり、シリンダーを繋ぐビスが錆びていたりと、対処しなければならない箇所が多数有り、走行テストで不具合が見つかると全ての箇所を再点検して逐一対処する状況でした。
多くの困難を乗り越え、数十年越しに復活したD52。新品同様の姿に戻り、無事にお客様の下へ戻ったのでした。